興味の壺

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マツダ式アイドリングストップ機構

マツダは、2005年東京モーターショーにおいて、スターターモータを使わないでエンジンを再始動させる「スマート アイドリング ストップ システム」を発表した。
このアイデアで、2006年第16回「日経BP技術賞:機械システム部門賞」を受賞している。

構造を簡単に説明すると、圧縮行程にあるシリンダーに燃料を極少量噴射して点火し、クランクを逆回転させる。そのとき膨張行程にあったピストンは逆に押し上げられる。そこに再度燃料を噴射し、点火することでピストンは再び下降し(正常回転)、エンジンは再始動するというものである。

始動用モーターを使わないでエンジンを再始動できるアイドリングストップ機構のため、バッテリを強化せず、ハードウエアの追加を最小限に抑えられる。
モータを使った再始動では0.7秒程度かかるものが、このシステムでは0.3秒ですみ、10.15モード燃費も約14%改善するというものである。

ほぼ空気量が同じくらいの位置でエンジンを止める(ピストンを、ほぼ同じ位置で止める)必要があるため、オルタネータをブレーキとして使う。クランク位置を精密に制御するため、精度の高い位置センサが必要となる。また、正確な燃料噴射が必要となるため、当然ながら直噴エンジンが前提となる。

このアイドリングストップ技術を搭載した新型車(マツダ アクセラ)が、2009年半ば、ようやく国内発売される。

当初のアイデアは、スタータモータを使わずにエンジンを再始動することだったが、実用化にあたり、予備回転用の燃料使用のため、燃費改善効果が薄いことが分かり、再始動時はスタータモータを併用する方法に変更された。
スタータモータでエンジンを回転させるのと同時に、燃料を噴射して点火することで、使用燃料を当初よりも減らし、スタータモータの使用時間も短縮、再始動時間を短縮した。
結果的に、0.35秒という短時間での再始動を可能にした。これはエンジンの再始動をまったく意識する必要のない感覚とのこと。

素早い再始動を実現するには、ピストンの停止位置が非常に重要となる。クランク角で30〜120度の範囲において、速やかな再始動を行うことができるめ、常にこの範囲にピストンが停止するように制御する必要がある。
エンジンは停止時にクランク軸のカウンターウエイトの重みでわずかに逆転する場合があるので、逆転も検出できるボッシュ製の新センサを採用した。これによって従来より正確にピストンの位置を把握し、素早い再始動を可能にしている。

夏場では、エンジン停止中に室温が上昇するため、早めに再始動してエアコンを作動させる。このため、夏場の燃費改善は厳しいが、それ以外の季節では、ドライビングにもよるものの5、6%程度の燃費改善を見込んでいる。
また、同システムを実現するために再始動用サブバッテリ等が必要となっている。このシステム単体では数万円の価格上昇になる。サブバッテリーは結構大きく、システム維持にも費用が掛かりそう。

様々な理由があるにせよ、発表から実用までに4年近く掛かった。クランクを始めとするシステムの精密なコントロール、また、ベースとして高度な直噴エンジンの技術は不可欠。全ての新技術に共通することだが、技術の積み上げから検証を経ての商品化には頭が下がる。

新しいものを生み出していくことは大変である。しかし、そこには技術者としての誇り、顕然としたロマン、そしてカスタマーを満足させるという喜びがあるのだ。