興味の壺

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寺垣式スピーカー TERRA-SP3000

昭和56年に登場した寺垣スピーカー第1号。
その後、7年を経た昭和63年、試作第2号機が完成。

前回書いたように、畳、布団、枕を通して伝わってきたゼンマイの作動音。
寺垣の中で、「音は、空気中を振動として伝わる」と言う認識から、「音は、空気と言う物質に波動として伝わる」と言う認識に変わった。
つまり、「音は、固体・液体・気体という物質そのものを伝わる波動として捕らえ、振動は、その現象の一つと認識すること」であった。

寺垣は、30年もの月日をかけ、この認識をスピーカーとして具現化してきた。

寺垣スピーカーの特徴としては、原理が同じである楽器と同様の特徴がある。
音の指向性がほとんどなく、360度どの位置から聞いてもほぼ同質の音が聞こえる。
次に、従来のスピーカーよりも音圧が少ない(体感する音の大きさの割には音圧が少ない)。
音圧の少ない音は長時間聞いても疲れ難い。という点である。

寺垣スピーカー TERRA-SP3000 [以下ウィキペディアの解説]
公式サイトの説明によると、コーン紙を利用せず、湾曲したバルサ板を振動板(パネル)として音を出す方式を採用している。

スピーカーの分類としてはコンデンサー型(静電型)スピーカーに該当する。
放音パネルは可能な限り振動を抑えていて、ほぼ静止した状態である。
通常、放音パネルの振動が大きければ大きいほど、先に出た音の振動は慣性の法則で残り、後に出る音の立ち上がりは不鮮明になる。

寺垣スピーカーは放音パネルの振動を抑えることで音の立ち上がりを明瞭にしている。その結果、音の1つ1つが非常に明確になる。
このパネルからの音は無指向性のため、スピーカーの周囲のどの位置でもほぼ同じ音場感を得る事が可能である。

寺垣スピーカーの理論で特筆すべき点は、音に関して「物質波」または「波動」という観点に立脚していることである。
音を単なる空気振動として捉えず、「ある物質の振動が媒質を通して伝播する現象」として捉えている。

慶應義塾大学環境情報学部の武藤佳恭教授が、物質波について独自に研究を行い、それを寺垣の公式サイト上のコラムで詳述している。
それによると、音には縦波(粗密波)だけでなく、横波も存在している。横波は、従来音として認識されている縦波とは違う性質を持っている。具体的に述べると、

横波の音は縦波の音に比べ減衰率が低い。
反響がほとんどない。
音同士が干渉しにくい(縦波は相互干渉により粗密波を生む原因になる)。
上記のような音のため、難聴の人にも聞き取りやすい。

という特徴を持っている。
寺垣スピーカーの音は主にこの横波であり、縦波を主に発する従来のスピーカーユニットでは実現できない音を再生する事が可能である。
[引用ここまで]

寺垣スピーカーは、音楽教師や、演奏家など、直に楽器に接している方々からの評価が高い。
また、高音も低音も出ていないというオーディオマニアの感想も多い。

ともあれ、一人の優秀なエンジニアが、30年を賭けた成果を聞いてみたいと思う。

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