興味の壺

メカデザイン、機器デザイン、プロダクトデザイン、伝統的アーキテクチャー等を紹介します。

最強金属VS最強ドリル

フジテレビ系で放映されているバラエティ番組で、矛と盾に関する故事「矛盾」にちなみ、相反するもの同士を戦わせ、決着をつけるというものがある。
そのシリーズで、2012年4月15日に放送された、「絶対に穴の開かない金属VSどんな金属にも穴を開けられるドリル」は、久々に、エキサイティングだった。

「絶対に穴の開かない金属」とされ、番組に登場した超硬合金は、「日本タングステン」が製造し、「最強ドリル」は、研削工具、転造工具などの製造メーカーである、「OSG」が製造した。
素材と工具の違いはあれ、共に日本トップクラスの製造メーカー。
プライドをかけた戦いが展開された。

「OSG」では、前回の番組で、この対戦にあたり、超鋼金属への穴開けには、通常のドリルビットを用いては、穿孔(せんこう)は不可能であり、「クロスエンドドリル」と彼らが呼ぶ、超砥粒タイプでしか可能性は無いだろうとの結論に達した。

使用された、「クロスエンドドリル」は、工具径φ20、#40(粒度)のもので、工具先端にダイヤモンドの粒子を電着させた特殊工具である。
これで、切削加工というより、砥石による研削加工に近い方法によって穿孔を目指したのである。

また、穴開けの方法としては、加工機械も世界トップレベルのものを用い(勿論国産)、工具自体が回転(自転)しながら、オービタル運動(公転)を行い、穴開けを行うという、ヘリカル(螺旋)加工を行うことによって、切りくず排出性を良好にし、工具損傷を低減させる方法を用いた。

結果は引き分けだったが、実質的にはドリルの負けという見方が多かった。

前回の反省を踏まえ、「OSG」では、対戦で砕けた素材の分析を行った。
素材の熱過渡特性を解析。
素材は、通常の金属とは違い、加工による発熱が素材内部に溜まっていくという特徴を確認した。

相手金属を破壊させず、熱に弱いダイヤモンドを守る。
そのため、排熱効果の高い工具を開発した。
具体的には、ドリルエンドに刻まれたクロススリットを8本に増やし、工具中心のオイルホール径を大きくしてクーラントの流量を増大させ、切削性能や、切り屑排出性、冷却性能を向上させた。

また、ダイヤモンドには、多層コーティングを施し、ダイヤ部分を延ばして、ジョーズの歯のように次々に新しいダイヤが現れるようにした。
更に、前回のヘリカル加工に加え、一定回転ごとに、工具を素材から離し、冷却と切り屑の排出を促がすことにした。

一方、素材メーカーの「日本タングステン」では、素材の種類は前回と同じものを用いたようだが、素材の周りを補強の金属で覆い、破壊を予防する措置を施して対戦に備えた。

ドリルの徹底的な熱対策が功を奏し、穿孔は順調に進んだ。
誰もがドリルの勝利を確信した終盤、突然、加工機が停止。
残り3oを残して、ドリルの寿命が尽きた。
加工開始後、凡そ、1時間半だった。

「OSG」開発責任者、大沢二朗は、呆然となり、悔し涙を滲ませていた。
残念だったかもしれないが、開発の真剣さに裏打ちされた自信の高さが伺え、好感が持て、ネットでも多くの共感を呼んだ。

画像は、対戦用ドリルビット。終了後のドリルビットは、ダイヤモンド部分が完全に摩滅している。

このような加工では、事前に加工条件を慎重に吟味する。
今回の対戦では、素材の種類も明らかにされていない。
加工条件も曖昧。よって、最初からどちらかにアドバンテージが存在する可能性もある。
まあ、しかし、バラエティ番組ということで、全てに目をつぶろう。

一本のドリルビットが、超難削材に対し、一時間半もワークし続けたことに驚嘆し、素材のクォリティの高さに感嘆した。
ナンバーワンであることに意味があるのだ。
両社の今後の更なる発展、日本の技術の更なる進歩を願った。

日本精工株式会社製トロイダルCVT[補足]
「日本タングステン」が用意した素材は、サーメット(Cermet)と呼ばれるもの。
セラミックスと、金属を混合して焼結した複合材料。超硬と比較して、耐熱性や耐摩耗性が高いが脆くて欠けやすい。

知らなかったが、今回の対戦は5戦目となる。以下ウィキペディアより引用。

第1戦:(株)タンガロイ(工具メーカー/以下同じ)
金属の勝利。
超硬合金製の特製ドリルを製作して挑んだものの、ドリルの刃がつぶれて金属に穴を開けることはできなかった。

第2戦:(株)アライドマテリアル
金属の勝利。
超砥粒というダイヤモンド研磨粒子を付着させた円筒形に切り出すドリルを製作して挑んだものの、超砥粒がはがれてドリルの刃がつぶれてしまい、金属に穴を開けることはできなかった。

第3戦(2011年7月18日放送):古河ロックドリル株式会社
金属の勝利 。
クローラードリルを持ち出し、岩盤を突き破るドリルを取り付けて挑んだものの、超硬合金製のドリルの刃がつぶれ、金属に穴を開けることはできなかった。

第4戦(2011年10月16日放送):オーエスジー株式会社
引き分け。
アライドマテリアルの失敗を元に研究し、製作したドリルで挑んだものの、穴は開かずに金属自体が割れてしまい、「割れてしまった以上自分の負け(金属側)」。
「(ドリルが)金属を割るのではなく穴を開ける使命という以上、自分たちは負け(ドリル側)」と、双方が負けを認めたため、ほこたて初の引き分けとなった。
なお第4戦に立ち会った業界紙記者によれば、実際の対決(切削)時間は13分以上に及び、また2回対決が行われたものの2回とも金属が割れる結果となったという。

第5戦(2012年4月15日放送):オーエスジー株式会社(再戦)
金属の勝利。
第4戦の結果を受けて行われたもので、オーエスジーはドリルの構造・切削方法の研究を行い、ドリルを製作して臨んだものの、1時間20分以上にわたる切削作業の末、日本タングステンが再戦を目指して製造した金属を貫通まで残り3ミリに迫ったところでドリルの刃がつぶれて機械が停止し、金属が割れることなく貫通を阻止したため、事前の業界紙記者による下馬評の、9対1でドリルの勝利という予想を覆して金属の勝利となった。

[参考及び画像引用サイト]
製造現場ドットコム:「ほこ×たて」緊急解説第2弾!オーエスジーVSニッタンの激闘!