興味の壺

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ロータリー熱エンジン

100〜300度の低温廃熱エネルギーの多くは、未利用のまま環境中に廃棄されている。原油換算で、年間約2億キロリットルものエネルギーが消費され、その約70%は低温廃熱エネルギーである。

高温の工業排水は、そのまま廃棄できない。排水の温度を50度程度まで下げるために工業用水などを大量に投入している例は多い。

無駄な事だが、効率的な回収システムが無いのだ。

株式会社ダ・ビンチは、バンケル型ロータリーエンジン(マツダが採用しているものと同タイプ)を用い、150度以下の低温廃熱から電気エネルギーを回収する「ロータリー熱エンジン」を開発、小型バイナリー発電装置として、2014年受注を開始した。

注:バイナリー発電:加熱源により沸点の低い媒体を加熱・蒸発させてその蒸気でタービンを回す方式。

400度以下の温度では、密閉した容器内のヘリウムガスを廃熱で暖め、ピストン運動に変えて発電する「スターリングエンジン」を用いた機構が既に実用化されているが、150度以下では使い物にならなかった。

トヨタ フリーピストンエンジン リニアジェネレータ構造図そこで、株式会社ダ・ビンチの東社長が目をつけたのが、ロータリーエンジンだった。

外部からの廃熱により作動液を気化し、その圧力でローター(回転子)を回転させる。エネルギーを失った作動液を再び液体に戻すというサイクル(ランキン・サイクル)を繰り返すことでローターを連続回転させて発電し、エネルギーを回収するというもの。

気化エネルギーをそのまま回転運動に転化することができるのでロスが少なく、しかも、小さな廃熱のエネルギーであってもローターを動かすことができる。
理論的にはロータリーエンジンの仕組みを使えば、150度以下の廃熱でもエネルギーを取り出すことができるとわかった。

問題は、ロータリーエンジンだった。
実用化に耐えうるものにするためには、エンジン自体の効率を高める必要があったが、小さなベンチャー企業のダ・ビンチにとって、ロータリーエンジンの開発までカバーするのは不可能だった。

東社長は、RX-7のロータリーエンジンの設計を手がけ、マツダをルマン24時間耐久レースで優勝に導いた伝説の技術者だった田所朝雄に出会った。

田所は、東社長が持ち込んだロータリーエンジンの試作品を見るなり「ロータリーエンジンを外燃機関として使えば、環境技術として新たな可能性が拓ける」と直感。
「技術者の血が騒いだ」(田所)という。
田所は技術顧問としてダ・ビンチのプロジェクトに参加。開発のスピードは飛躍的に向上した。

トヨタ フリーピストンエンジン リニアジェネレータ構造図マツダ製ロータリーエンジンの特徴は、ローターの内周に形成された内歯歯車と、エキセントリックシャフトに形成された外歯歯車とを噛合させるが、ダ・ビンチが開発した方法は、偏心支持ローラーシャフト端部に、ローラーをセットし、このローラーがローターの内周側面に当接するようにしている。

これにより、ローターが回転する際の回転抵抗を小さくすることができ、圧力差が小さく、ローターを回転させるエネルギが小さい場合でも、効率よく回転駆動することができる。

ロータリーエンジンは燃費が悪いと思われがちだが、作動媒体に水蒸気を用いた場合、吸気しているチャンバーから次のチャンバーに逃げ出す、要するにリークする蒸気量は、回転数が低い領域では10%を超えるが、回転数が1500rpmを超えると、リークは、1%程度となる。
すなわち、このエンジンは低速では燃費が悪いが、適正回転数を維持できるランキンサイクル等では非常に効率の良いものとなる。

作動媒体を、HFC245fa(「新フロン」と呼ばれている)にした場合、200rpm程度から殆どリークが無くなる。

また、このエンジンでは、入力と出力ポートを2系統設けており、常に2方向からローターを回す構成としている。こうすることで、同じ排気量ならば、内燃機関の構成と比較して1.5倍程度の出力が得られる。

因みに、ローターが1回転するとシャフトは、3回転する。

株式会社ダ・ビンチのロータリー熱エンジンは、今まで再利用が困難とされていた、40〜200度の低温廃熱を用いた、発電が可能な低温廃熱回収システムである。

作動媒体に、HFC245faを用いた場合、40度の廃熱源(液体)と25度の冷却水で発電することが可能。
例えば、蓄熱タンクに85度の廃熱を貯湯しながら、その熱源を循環して発電させると、 湯が50度程度になるまで発電に利用することができる。

僅か10kW程度のシステムでも熱仕事効率は最大で6%を達成しており、現在、開発中ものは中間熱交換器を搭載し、熱仕事効率10%の達成を目指している。

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